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友の幸せに微笑みを

2012.01.20 15:56|狼陛下の花嫁 ss
*リクエストss1 (asukaさまへ)

【注意】

*黎翔×夕鈴+殿下+明玉
*舞台は下町


それでもok!という方のみご覧ください。



チリン―――――…


昼時の、目の回るような忙しさがやっと過ぎ去り、一段落した時刻。店の戸に付けた鈴の音が静かな店内に響き渡った。


(やだっ、お客さんだわっ!)


丁度最後のお客もかえり、しばらく次は来ないだろうとふんで休憩していたのに。突然やって来たお客に私や店の皆はあわててそのお客を迎える準備に取りかかる。

お客のいない店内、直ぐに出てこない店員、そしてガタガタと慌てて準備する様子に、そのお客は勘違いしたようで。



「すみません。準備中でしたか?」

「いえいえ!大丈夫ですよー!」



出ていきそうな雰囲気に、私は急いで身なりを整え入口で戸惑っているだろうお客の元へ向かった。せっかく来てもらったのに、そのままかえられてしまうなんてことはしたくはない。



「ごめんなさいね、つい昼時の忙しさが過ぎたばかりなものですから気が抜けてしまっ………」


来たお客は十七、八くらいの少年のようだった。けれど、年がどうとかではなくて。私は目の前の人物に驚いてしまって、案内をすることも忘れ、見いってしまった。


「あの、やっぱり準備中なら出ますから…「あらやだ私ったら!こちらへどうぞ~!」


お客の声でやっと私は我に返り、急いで店内の席に案内する。それなのに何故か『いえ、本当に出ていきますから…』と逃げようとするので、『せっかくいらしたんですから~』と、無理矢理席につかせたのは気にしない。



「こちらがメニューです。」

「…ありがとうございます。」


お客も私の強引さに諦めたようで、渡されたメニューをパラパラとめくり始める。


(似ているわ…。)


そのすぐ横で、私はある人物とそのお客を重ねていた。


頭からすっぽりと隠すように羽織っている装いと、かけられた黒いメガネ…そして黒髪にその髪型…。背丈や年齢は少し違うけれど、雰囲気が、



「やっぱり、そっくりね…」

「…それって、僕と誰かの事をいってますか?」

「あらっ、私声に出してました?」

「…えぇ。」



少し眉を寄せ、私を見上げるようにして視線を合わすお客に、もう口に出してしまったし、と思っていたことをあかすことにした。



「ごめんなさいねぇ~。悪気はなかったのよ。昔、友人がつれてきた方に似ていたものだから、つい…。」


本当にごめんなさいね。と誤魔化すように、ほほほと笑っていうと、目の前のお客は『いえ、なれていますから…』と小さな声で、何処か自嘲気味に呟いた。

十七、八というわりには落ち着ちつきすぎているような、というか、その言葉の奥にどこか苦労してきたような様子が感じられて。


(あらあら。)


年若い少年が、何にそんなに憂いているのか。


「ふふふ。なれているってどうして?」



不思議な雰囲気のこの子に、純粋に興味がわいてきて、店員ということもつい忘れて聞いてみる。



「…僕が父にとても似ているみたいで、ことあるごとに言われるんです。」

「あら、親子なら似ていて当たり前じゃないの。あまりに君が深刻そうに言うから何かと思ったわ。」



年相応の可愛らしい悩みというか答えに思わず笑みかこぼれる。



「じゃぁ、君は父親に似ているのが嫌なのかしら?」

「…嫌、じゃないと思います。嫌なのは見た目が似すぎているせいでいろいろと厄介な事に巻き込まれるのが嫌なだけで…」


巻き込まれる?と少し引っ掛かる気もしたが、そうはいってもまだまだ年若い、四十近い私にとっては子どもみたいな子が言うことだから、なにか父親を知っている人ににからかわれたりすることとかが嫌なのかしら?とここでは思うくらいだった。

けれど少年は整いすぎているというくらい、完璧な容姿で、それなのにからかう者がいるのだろうかとも思ったけれど。


(綺麗だから、女の子にでも間違えられてしまうとか?でも、これだと父親は関係ないかしら?)


結局分からなかったけれど、色々と考えていたら楽しくなってきた。


「あらあら、それは大変ねぇ~」

「絶対ばかにしてますよね、お姉さん。」

「してないわよ~。えーと、そうだわ。名前を聞いていいかしら?話すのに名前を知らないと少し話しづらくて。私は明玉っていうの。」


好きに呼んでくれて構わないわ、悩める少年?と少しからかうように問うと、


「…り、しょう…」


と少し間が空いて、そう答えた。


「李翔くん?あら、見た目だけじゃなくて、名前も一緒なのねぇ~」

「え?」

「ほら、さっき言った友人の連れてきた似ているって人!」


ここまでくると、偶然って気がしないわねぇ、と感心してしまう。



「李張ですっ!李翔じゃなくて、李張!!」



すると何故か物凄い勢いで訂正してきて。


「李張くんかぁ。聞き間違えだったのかしら。そうよね~名前まで一緒だなんてあり得ないわよね~」

「そうですね。聞き間違えです。」



にこりとあまりにも綺麗に笑うものだから、まっ、いいかと納得したことにする。


「こらっ明玉!無駄話ばかりじゃなくて注文はまだなのーーー!?」

「あらっ、忘れてたわ!!すみませーん、今取りまーす!」

「じゃぁ、僕こういう所よく分からないし、このお店のお勧めをお願いします。」

「ごめんなさいね~。お詫びにこのお店の一番美味しいもの、私がご馳走するわ。」

「えーと、それは「いーのいーの!!」」



戸惑う李張くんを、これまた強引におさえて私は厨房へ急いで向かったのだった。











「注文をはいりまーす。」



(やっと行った…)



明玉という恐ろしい勢いで話しかけてくる店員が去り、僕は小さく息をつく。


(なんなんだ、あの店員…。)



店に入った瞬間、固まったように見てきて、不審に思って出ようと思えば強引に案内されて…

そして気がつけば名前もあかし、何故か話し込んでしまっていた。


(偽名だけど。)


本当の名はあかす訳にはいかない。幼い頃から、自身の立場というものを理解はしていたし、それなりに他人に対する対応も身に付けていた。

というより、身に付けなければならなかった、という方が正しいのかもしれない。…あまりにも母親を溺愛しすぎる父親をもつと、一人立ちせずには暮らしてはいけなかったのだ。

…まぁ、それは置いておいて。



(李翔、ねぇ…)



まさか、まさか父親ということはないと思いたい。けれど似ている容姿にその名…それに、先ほどの店員の友人に付いてきたというその行動の仕方…否定したくても本人の可能性が高い。


(でも、あんな父親と偽名も格好も被っていただなんてっ!!)


見た目だけでなく、性格も雰囲気も似ていると言われるようになってきたこの頃。

見た目はいい。それにこの国を正しく統治し、とどまることなく発達させる父を尊敬していたし、そんな父と似ていると言われることは誇らしくもあった。

けど、どうしても母に関して甘く、心酔しきっている父親を見てしまうと…


(あんな、あんな父に似ているというのなら絶対に嫌だ。)


どうしてもそこだけは違うと断固拒否したい思いでいっぱいだ。


『ふん。お前もそのような人に出会えばわかるだろう。私も彼女に出会うまでは誰かに溺れ、自身より、なにより大切な者をもつなど、愚かなことだと思っていたのだ。お前が認めなくても、お前は私にそっくりだからな。きっと遠くはない未来に、この気持ちを理解するときが来るだろう。一時も離したくはない、いとおしくてたまらない、とどまるどころか年々増し、狂おしいほどの想いを。』


だから、王都へは一人で下れ。私は夕鈴と久々に二人きりで過ごしたいのだ。

と、久々でもないのに。母の宿下がりと、僕に与えられた仕事がたまたま重なって、一緒に王都へと下るはすであった予定は初日から崩されてしまったのだ。

いくら3日の宿下がりが気に入らなかったからって、あれほど楽しみにしていた母がそれをすんなり受け入れるだろうか…。

いや、母は嫁いでから正式な宿下がりは一度もしていないという。正妃となれば当たり前と言われればそうなのだが、王が許し、供もつけ、内密に下れば問題はないはずなのだが。

王が許さないのだから叶わない。今日のように決まっても、『邪魔をされて、流されてしまうのよ…あの人は口が上手いから。』と母がもらしていたのを思い出す。

結局、母も母で父には弱いのだ。


(どっちもどっち。つきあってられないよ。)



今日、ここへ来るまでの経緯を思いだし、あきれてため息が出た。



「それは、お父さんに関する悩みごとかしら?」

「えっ?」


急に耳に入ってきた元気な声音に、ぐいっと、現実に戻される。



「はい!これがお勧めの絶品料理よ~これは、こーして、こうやって食べるの。ささっ、食べて?」

「あ、ありがとうございます。」



考え込んでいたせいで、忘れかけていたがそうだ、ここは下町の茶屋だった。

明玉の勢いもあって、言われるままに口へ料理を運び、味わってみる。


「美味しい…」

「でしょ!?私これが一番このお店で好きなのよ~夕鈴もこれが好きでさぁ。よく二人きりで食べまくったものよ!!」

「えっ…、今なんて?」

「一番好きな…「じゃなくて!!誰とこれをよく食べていたって!?」

「えっ!?えーと、夕鈴っていう、さっき話した友人で…それがどうかした?」

「い、いいえ!聞き間違えだったみたいです。すみません。」

「そ、そうならいいんだけど…びっくりしたわ~急に大きな声を出すんだもの~」

「すみません…」



するといーのよ!!と明玉さんは笑った。この深くは追求せず、元気で勇ましく、そして優しく笑う顔。


(母上に、似てる?)


父親に似ている人物を連れてきた母親と同じ名の人物。その友人だというどこか母親と似ている、明玉さん。



(そうか…母上の、友達なのか…)



そうなんだと、全てがすっぽりと僕の中で当てはまっていった。



「でも、夕鈴…その友人とはね十数年も会えていないのよ。」

(父上のせいで、だな。)


内心で母上と明玉さんを憐れに思う。父上が母上を愛するあまり、母上は友人ともあえないでいたのか。


「手紙や彼女の弟やある人からは話を聞いたりしてはいるんだけど…自分の目で見ていないからか、信じられなくてね。」

「はぁ、」

「だって、あの子が結婚!?しかも子どももいるだなんて!信じられないわよ!ねぇ!?」

「っ!!ごほごほごほっ…」

「あら、大丈夫?」

「は、はい。」

「夕鈴といっても、李張くんには分からないのよね…ごめんなさいこんなこと話して。」

「いえ、かまわないですよ?」


「ほんとに!?ありがとう!!」

「い、いえ…(父上のせいで母上も友人と会えていないんだ。僕が話を聞いて、母上に明玉さんの事、伝えてもいい、よね…)」

「あーもぅ、これ話したくてたまらなかったのよ!だって信じられないって弟くんには言えないし、几鍔さんにいっても信じるも信じないもそれが事実だ、としか言わないし、町のみんなは私と同じ意見だけれどもう町のみんなとは話しすぎてて…」

(母上、ネタにされてる?)

「そりゃね?夕鈴だって、もう母親でもおかしくはない年よ?けど、最後に見た夕鈴を思い出すと…あの子が結婚!母親!友人とはいえ、あの鈍感だし、奥手だし、女らしさの欠片もないし…想像できないのよ…」

(そこまで心配されてる、というか信じられてないって…一体…でも、)

「だって、きっとあの子、意識していない人なら大丈夫だけれど、意識しだしたら少しでも触れたら大騒ぎするわ。」

(…確かに…今だ人前で父上が抱きつきようものなら、真っ赤になって暴れてるし…)

「裾が捲れようと構わず、動きやすければいい、と思っているような子なのよ。」

(そういえばこの前、書庫の整理をしているとき、気がつかないのか裾が膝上までめくれていて、若い官吏達が見ているのを、父上が見て…怒った父上が母上と寝所にこもったものだからめんどくさいことに…)


明玉さんの言葉に、厄介な事ばかりが思い浮かぶのはどうしてだろうか。


「きっと、夕鈴と結婚した相手は大変だわ…」


(いや、実際は母上の方が大変なめにあっているんですけどね…)


とは言えず。


「えーと、僕には良く分からなくて上手くは言えませんが、きっと、それだけたくましい人なら何処でも幸せでいると思いますよ。以外とそれなりに愛し、愛されて、それはもう迷惑極まりないほど仲良く、えぇ、見ているのも恥ずかしいくらいに仲良く暮らしているもんですよ…」

「そ、そんなものなのかしら…?」

「えぇ…そんなものらしいですよ…」

「え?」

「?」



僕の言葉に明玉さんが不思議そうな顔で僕を見た。
なにか不味いことを言ってしまったかと思い少し焦る。


「な、なにか、凄く説得力があるけれど、近くにそんな方がいるのかしら?」

「っっ!えぇ、まぁ。」

「もしかして、ご両親、とか?」

「!!」



あまりにも両親を投影しすぎていたのか、あっさりと、明玉さんに見透かされてしまった。



「当たり、みたいねぇ~」



そこまで自分が今日初めて出会った人に、見透かされてしまうくらい、隙を作ってしまったことが情けなくて。嬉しそうに言う明玉さんに言葉が返せない。


「私の話も聞いてもらったし、李張くんもなにかたまっているなら私に話して?楽になるわよ~」


すると、明玉さんがとんでもないのとを言い出すものだから僕は慌ててそれを断ろうとするが、


「私は話したのに?」

(自分から進んで話したんじゃないか…)


とは思うが言い返せなかった。どうしてもかわすことや誤魔化すことが得意な僕でも、母親と似た雰囲気の明玉さんには勝てる気が初めからしなのだ。


「ほらほらほらっ!」



(はぁーーーー…)



逃れられない状況に、心のなかでため息をつく。両親から逃れられたと思ったら、今度は母上の友人か。



「…じゃぁ、一つだけですから…」

「はいはい。」

「…僕の両親は、先ほどの話から分かるとは思いますが、それはもう仲がいいんです。」

「いいことじゃない。」

「えぇ、それだけ聞くならそうかもしれません。でも、もう四十近いというのに、父の母への寵愛は年々増す一方で…、朝も昼も夜も、一時たりとも離れたくはないと母を側へおき、つれ回すのです。」

「あら、なかなかいないわそんな男性って。そんなに一途に愛されるだなんてその女性は幸せでしょうね。」

「……少しでもその母の姿が消えようものなら、それはなにもかも放棄して探しだし、母に近寄ろうとする男性は片っ端から排除、母と喧嘩をしようものなら誰もが近寄れないほどの威圧感で歩き回り、周りにに支障がでるほどなのです。」

「あれまぁ。」

「その人目もはばからず、愛でようとする父についに母はこの間泣いて逃げ出しました…」

「…」



そう、あの時は本当に全てが終わりだと宮中の誰もが死を覚悟したという…

母が逃げ出したあの瞬間は、今思い出しただけでもぞっとする。何故か、氾紅珠の家に母は逃げ込み、その日から七日間の防衛戦が繰り広げられたのだ。

その被害を一心にうけたのは長男の水月で。大量の文献と殺意のこもった視線に、死んだ方がらくかな、と虚ろな目でぼやいていたと聞く。

そして僕はというと、伝書鳩のように両親の手紙を互いに運んでいた。それだけでなく、その合間に母を宥め、妥協案をねり、父へ伝えては、父の母への愛を説かれ、それは気が狂うような日々を送っていた。

そんな日々の終わりを告げる七日目の夜。母はふらりと帰ってきたことからこの悪夢はあっさりと終わりを告げた。

なんでも、父がそんな母に愛想をつかし、別の妃をめとった、という夢を見たらしい…。

そんなことなど、あの父上に限ってあり得るはずのないのに。



「結局、母も同じくらい父に惚れ込んでいるのでしょう。そして年々何かがあるたびに、周りは怯え、それを何とかしようと走り回り、その間に二人は自力で何故か戻っていて、…疲労だけが私たち周りにつのり、たまっていくのです。」


そんな両親の馬鹿馬鹿しい武勇伝はつきない。けれど、全て話していたら何年、かかるだろうか、恐ろしくて考えたくもない。


「…なんか…」

「はい。」

「似ているわね、………この国の狼陛下とそのたった一人の寵妃に…」

「え、?」

「ほら、この書物。」



そうして渡された丸められた見覚えのある書簡に、僕は嫌な予感がして、顔がひきつっていくのを感じる。


「これはもしかして…」



聞かずしても分かっていたが、否定したくて明玉に尋ねた。



「ええ、最近巷で大流行中の、ある国の陛下とその寵妃のお話よ。最新のね。つい先週末あたりに発売されたものだったと思うわ。」

(先々週の出来事がもう書物に!?)



『すみません殿下。だって、あんな素敵なお二人のやりとりを目の前で見られたんですもの!筆が止まらなくて…気がついたら書き上げていましたわぁ~』



また陛下と正妃さまの愛の記録が出来て、私、幸せですわっ!と上気した氾紅珠の顔がありありと目に浮かぶ。



(やられた…)


こんな恥ずかしい記録が世に出回るだなんて…、でも氾家の力は絶大だ。もはや諦めるしかない…



「これって、はっきりとは記載してはいないけれど、この国の王と正妃さまのお話だと噂されているのよ。実際、流れてくる噂とこの書物の日付があまりなも重なるものだから。」




ことあるごとにその詳細を書物にされ、民衆に知られていると知ったら、母上はどう思うだろうか。またまだ正妃の顔は民にはお披露目されたことがなく、もし母上と馴染みの深いここで、母上がその正妃だとばれることがあれば。



(耐えられるのかな…)



少しだけ、母上が可愛そうに思える。けど母上の心配より、そこから暴走して出る被害が恐ろしい。



「李張くん、会ったときから何処か普通の人ではないと思っていたけれどもしかして…」

(まずい、かな…)

「明玉さ――――――……どうかしましたか?」



ばれたかと、思ったその時。明玉さんは僕の後ろを見て目をめいいっぱい開き固まった。




「明玉さん?」

「…ん………りん………―――」

「えっ?」

「間違えないわ…夕鈴っっっ―――――!!!!!」




物凄い勢いで、店の戸を開け放つと目の前の通りにたたずむ女性に向かって走り去っていく。



「母上!?」


その名に、僕も慌てて明玉さんの後を追う。


「あー、お願いだから何も起こさないでよ母上、」


心配する僕の声は明玉さんの歓喜の声で打ち消されてしまった。










「夕鈴っっっ!!ねぇ、夕鈴でしょ!?」



私は久しぶりに見る友人であろう彼女に、必死で話しかける。


「えっ!?明玉!?貴方、明玉なの!?」

「そうよ!何?忘れちゃったっていうの?」


わざと皮肉をこめると、やだ忘れるわけないじゃない!と夕鈴は昔のように大げさなくらい喜んでは私を抱きしめてきた。

その瞬間ふわり、と香る懐かしい友のにおい。やさしくて、あたたかい、変わらないことを教えてくれるそのにおいと温かさに涙が溢れそうになった。



「明玉、ほんと…何年ぶりかしら…ねぇ、顔を良く見せてちょうだい。」

「ほんとよ。十数年ぶりだわ。」

「あぁ、本当に明玉…明玉だわ…」

「夕、鈴?」



そういってほろり、と涙をながしながら笑う目の前の女性は誰だろう?そこにいるのは幼いときから見知った幼馴染みだというのに…。優しげで、でも何処か儚げで、けれど芯のある、なんともいえない美しい女性がいた。



「明玉?」

「えっ?」



自分を呼ぶ声に、初めて私が夕鈴に見とれてしまっていたことに気づく。



「大丈夫?どうかした?」

「ごめんなさいっ!嬉しくてぼーっとしてしまったわ。」

「明玉ったら。」



ふふふ、と夕鈴は笑う。いつからこんな風に笑うようになったのだろう。私の知っている夕鈴はそれは豪快に笑っていた気がする。几鍔さんが呆れるほどに。



「ねぇ、ゆ「夕鈴」



凛と響く、低く、けれど優しい声音で友人の名が呼ばれた。



「あら、お買いものはすみましたか?」



友人はその声をすぐに捕らえ、そちらへ振り返る。



「あぁ。その中で君に似合う簪を見つけたんだ。…つけくれる?」



慣れたようにその男性は友人の腰に片腕をまわし、彼女を引き寄せた。



「またっ。無駄遣いはいけないといつも言っていますよね?」

「無駄遣いではない。君は無欲すぎる。たまには私に君に捧げる機会をあたてはくれないか?。」

「もう。しょうがない人。」



そう言いながらも友人は嬉しそうであった。友人もその細いうでを彼の背にそっと回す。


「しょうがない私は嫌いか?」

「…今日の貴方は意地悪ですね。」

「意地悪な私は嫌いか?」

「知っているくせに。」

「知らないな。捕まえたと思えば、すぐに君はいつも私のもとから逃げてしまう。」

「あの事は、反省しています。」

「なら、どうすべきかわかっているだろう?」



すっ、と彼女の手が彼の顔に触れた。少しだけ爪先を上げ、彼女は彼の頬に口づける。



触れるだけ。それだけなのに、とても美しく、でも艶かしさも感じられて、私は立ち尽くして目の前の光景に見いってしまう。

きっと、私の顔は真っ赤に染まっているだろう。顔が、体全体があつい。




「ねぇ、周りをみたら?」



すると後ろから先ほどまで聞いていた、あの少年の声がした。

その声に、私はやっと体の自由を取り戻す。



「り、李張くんっ、」

「こんな往来の場で、まったくいい大人が恥ずかしいよ。」

「ちょ、っと。言い過ぎだわ。」



それは、私も思ったけれど。でもあの夕鈴がこんなことを人の目の前でするだなんて。いやその前にあれほど、色気のない、がさつ女といわれた夕鈴が、こんなにも女らしく、品のある女性になっていただなんて…世の中なんとかなるようになっているのね。

その変貌ぶりに驚きが隠せない。今にもこの素敵な女性が夕鈴と、町の皆に見せびらかしたくなった。




「まったくはお前だよ。なんでいつも良いところで邪魔をするかなぁ。」

「人目につかない、迷惑のかからないところでならお好きなだけどうぞ。」




そんな夢心地な気分も、こちらへ向いた男性と李張くんのやり取りに現実に引き戻される。

向かい合う容姿に格好を見比べて、あまりにもそっくりなものだから、



「…親子?」



そうとしか思えなかった。



「えーっと、明玉さんだったよね?」

「はい、あら…貴方は李翔さん、でしたよね?」

「そう。夕鈴がいつもお世話になっています。」

「いえ、こちらこそ…」



十数年前に一度、夕鈴が連れてきた上司という李翔さん。その彼が、夕鈴と共にいて、彼に似た子供が李張くんってことは…


「"いつも"って数十年会えていないんだよ?父上のせいで。」

「僕の?」

「父上の。」



お互いに奇妙なほど、笑っていた。どちらもひけをとらず笑顔が恐ろしい。



「やめなさいっ!」



ぱしっと、夕鈴が二人の頭を叩きその表情は面白いように変わった。


「ゆーりん、酷いよ…」


としょんぼりする李翔さんと、


「母上には敵わないね。」


と苦笑する李張くん。
夕鈴の側にいる彼は、会ったときに感じた大人びた感じはなく、年相応の十七、八の少年に見えた。



「えーと、明玉?ごめんなさいね。なんだかどたばたしていて…」

「良いの、なんだか見ているだけで楽しいから。」

「もー。でね、手紙では書いていたと思うんだけれど、こちらがお、夫の李翔さんで」

「ゆーりん、まだ僕の事を夫っていうのなれないのー?」

「ちょっと、めんどくさくなるので黙っていてくださいっ!」

「酷いよゆーりん。」



にゅっと、伸びた李翔さんの腕をぺしっと、夕鈴が払うものだから私はついに声に出して、大笑いしてしまった。



「ほんと、あんたって、変わらないのねー。」



さっきまで綺麗になって嬉しい反面、何処か遠くの人になってしまったようでどこか寂しかった。けれど、いくら雰囲気が変わったって、見た目が変わったって、夕鈴は夕鈴だった。芯はまったく変わっていない、まっすぐで、努力家で、素直で、ちょっぴり恥ずかしがりや。可愛くて、大切な友人。



「明玉~」


ちょっと聞いてよ!とせがむときの仕草、表情。今までなんど、私の勤める茶屋に、家にそういっては駆け込んできただろうか。


「はいはい、聞くわよ。夕鈴。」

「でね、このこが私の息子で――――……」





幸せそうに話す友人。どうやら私が彼女の息子に話した心配は杞憂に終わったようだった。



『愛し、愛されて、それはもう迷惑極まりないほど仲良く、えぇ、見ているのも恥ずかしいくらいに仲良く暮らしているもんですよ…』


(えぇ、ほんとにそうだったわね…)



意地悪にも息子とは隠して聞いてくれていた彼に、私は意味を含めて微笑む。

すると、彼もまた私に向け呆れたような表情をして、次は両親を見て私に笑いかけた。




それはとても奇妙な出逢いと談笑の一日。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


*asukaさま 200hit リクエストss

『男盛り女盛り30代の陛下と夕鈴の万年いちゃいちゃぶりを見せつけられる第三者視点(子供か李順)オチは勝手にやってて(呆れ)的な締めで』


とのことで書かせていただきましたがいかがでしょうか。


なぜかこのリクエストをいただいたとき、殿下を下町の皆と絡ませたい…的な、衝動にかられまして。なんだかキャラのつかみもぐわんぐわんな明玉さんをだいばってきさせていただきました!

設定としては殿下17歳くらいで夕鈴たちは37歳くらいでしょうか。

陛下が年々夕鈴をはなさないものですから、明玉と17年…わぁ、17年会えていなかったという物凄いところからスタートです。

明玉のお店に、なにも知らない殿下がきて、お互いに分からないまま、明玉は殿下に昔の両親のお話と、噂の国王とその寵妃のお話をしていただこう!そして、殿下は両親ののろけネタを明玉にぶちまけて、そのあとすぐに夕鈴らに再会。

あれってことは?
さっきのいちゃいちゃ夫婦ネタはお前らかっ!!

みたいなお話にしよう。
とおもったら、少し、後半しっとりな(?)感じにまとまってしまいました。

ど、どうですかね(びくびく)


asukaさまいつでも返品、修正、書き直し承りますので、がっつーんとおっしゃってください!!


では、また殿下話つきあってくださった方々、素敵なリクエストをくださったasukaさまに感謝をこめて。






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